『営業より』
「被爆体験伝承者」をご存じでしょうか?これは、高齢化が進む広島・長崎の被爆者本人に代わり、その壮絶な被爆体験や平和への思いを受け継ぎ、次世代や世界に向けて語り伝える人々のことです。被爆者から直接教えを受け、約3年間にわたる研修を経て認定される取り組みで、戦争を知らない世代が体験者の「声」を未来へ渡す架け橋として注目を集めています。
7月に刊行された『新聞記者、伝承者になる!』は、新聞記者として長年「戦争」の取材を重ねてきた著者が、自らこの「被爆体験伝承者」となり、被爆者の思いを引き継ぐ道のりを綴ったドキュメンタリーです。3歳で被爆した清水弘士さんの体験や、戦後の病気・貧困・差別・行政の無策に苦しんだ「被爆者の空白の10年」をはじめ、水木しげるさんや半藤一利さんといった戦争体験者たちの金言、そして自らの言葉で平和を発信する若者たちとの出会いを鮮明に描き出しています。
著者は長年にわたり朝日小学生新聞・朝日中高生新聞の記者として、10代の読者に向き合い続けてきた人物です。本書は、難解になりがちな歴史的背景や複雑な社会問題を、若い読者にも伝わる言葉へとかみくだき、中高生の等身大の疑問や感覚に寄り添いながら書かれています。
いま、国際情勢はかつてない緊張の中にあります。ウクライナ戦争や中東情勢をはじめ世界各地で激しい対立や戦闘が続く中、世界では再び「核抑止論」が幅を利かせています。核兵器不拡散条約(NPT)を巡る議論が後退し、国際社会の念願であった核兵器禁止条約の有名無実化が危ぶまれる一方で、核保有国は「抑止力の強化」を掲げて核兵器の再配備や軍備増強を進めるなど、核を巡る現実は厳しさを増すばかりです。
「核の惨禍」が単なる過去の歴史ではなく、現代の差し迫ったリスクとなりつつある今だからこそ、被爆者の体験や生の声を学び、知ることの重みがこれまで以上に増しています。原爆が一瞬で街を焼き尽くしただけでなく、何年にもわたって人々の身体と心を蝕み続けた「被爆の実相」を正しく知ることは、暴走する軍縮後退の波を止め、惨劇を二度と繰り返さないための最も確かな防波堤となります。
特に、広島・長崎の原爆の日や終戦記念日を迎える夏の時期は、私たちが平和の尊さについて深く思いを馳せる季節です。この夏休みに、小・中学生や高校生をはじめとする子どもたちが本書を読むことには、極めて大きな意義があります。子どもたちへ伝えるプロである著者が、戦争を知らない世代として「どのように被爆者の思いを受け止め、自らの言葉で語り継ぐ伝承者になったのか」という試行錯誤が分かりやすく描かれており、歴史を「自分事」として捉える最高のきっかけとなるからです。作中で描かれる、歴史を学び語り部として立つ同世代の若者たちの姿は、「自分たちにも平和な未来をつくる力がある」という勇気と主体性を引き出してくれるでしょう。
被爆者の高齢化が進む中、日本被団協へのノーベル平和賞授賞に象徴されるように、いま世界は「被爆体験の伝承」を切実に求めています。過去から受け取った平和のバトンを、どう次世代へ渡していくか―。家庭での対話のきっかけとして、また夏休みの深い学びと気づきの友として、ぜひ多くの読者に手にとっていただきたい必読の一冊です。


