お知らせ

『営業より

原発回帰に合理性はあるのか

世界有数の地震・津波大国である日本において、原子力発電の運用は常にリスクと隣り合わせです。東日本大震災での福島第一原発事故が突きつけたように、ひとたび過酷事故が起きれば広大な地域が居住不能となり、回収不能な被害と天文学的な賠償・廃炉コストが発生することを私たちは目の当たりにしました。さらに、北朝鮮をはじめとする緊張状態にある国々と相対する日本海側の海岸線沿いに原発が集中して並ぶ現状は、有事の際やドローン等によるテロ・ミサイル攻撃に対して極めて脆弱であり、国防・安全保障上の重大な致命傷となり得ます。これらに加え、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場は依然として決まらず、原子燃料サイクルも事実上とん挫しています。解決策を持たないまま放置された構造的欠陥と危険性を前に、いま政府が進めようとする「原発回帰」に真の合理性や持続可能性は存在するのでしょうか。
 
7月に刊行された『原発回帰に合理性はあるのか 元推進者からのエネルギー政策への提言』の著者は、1967年から約半世紀にわたり日本原子力発電および日本原子力産業協会という「原子力村」で原発推進の最前線に立ってきた人物です。しかし東日本大震災発生時に福島に在住していた著者は、原発事故に伴い避難生活を余儀なくされました。長年信じて推進してきた原発の事故に直面したこの出来事が大きな転機となり、自らの推進姿勢を徹底的に振り返り、真摯な省察を経て本書の執筆に至りました。
本書では、原子力村の中枢にいた著者だからこそ見えてくる組織体質の病理、実態からかけ離れた不公正な発電コスト計算の実態、現場での技術継承の限界、そして世界で急伸する太陽光発電と蓄電池によるエネルギー革命から取り残される日本の危機的現状を、客観的データとともに徹底検証しています。
著者が問うのは、単なる原発への感情的な賛否ではありません。過酷事故の懸念や安全保障上の脆弱性、安全対策や処分問題という根本課題を後回しにしたまま強行される拙速な「原発回帰」が、どれほど深刻な負の遺産として将来世代に重くのしかかるのかという構造的・倫理的な問題です。自発的な改革を拒み利権や組織防衛を優先する「組織ファースト」の病理に鋭く切り込む語り口は、エネルギー問題の当事者のみならず、現代社会の意思決定や組織のあり方に悩むすべての人々の胸を強く打ちます。2050年の日本の姿を見据え、立場を超えて日本の未来とエネルギーのあり方を真剣に考えたいすべての人へ、今こそ手にしていただきたい必読の書です。