お知らせ

『営業より


美術館は作品を見るところ、それが普通だと思っていませんか?実際、美術館に行けばいたるところに「作品には触れないでください」という注意書きが掲示されています。しかしもしその一線を越えて、偉大な芸術家の彫刻などに直接触れ、その質感や造形の力強さを触覚として感じることができたら、私たちの芸術体験はどのように変わるのでしょうか。
6月初旬に刊行される『手でふれてみる世界 美術館におけるアクセシビリティの現在』は、イタリアにある、すべての人が作品に触れて鑑賞できるという世界でも類を見ない「国立オメロ触覚美術館」を舞台に、視覚を超えた表現の可能性を綴った一冊です。
自身も全盲である創設者のアルド・グラッシーニ氏は、「なぜ目が見えないというだけで、人類の至宝に触れる権利を奪われなければならないのか」という素朴かつ切実な問いから、この美術館を創設しました。
本書と同じタイトルのドキュメンタリー映画を制作し、上映活動を続ける著者の岡野晃子さんは、映画監督としての確かな眼差しで、この美術館がもたらす「触察(しょくさつ)」の魔法を描き出します。
印象的なのは、それまで「見る」ことができないために芸術から遠ざけられていた全盲の少女ララさんが、初めて美術館を訪れた際、触察を通じて彫刻の細部や背後にある物語を理解し、表情を輝かせていく場面です。そこにあるのは、単なる情報の補完としての「触れる」行為ではありません。作品と鑑賞者が一対一で対話し、魂を交わし合う、極めて濃密で双方向的なコミュニケーションの姿です。
さらに本書は、日本国内の美術館におけるアクセシビリティの最前線や、法改正に伴う社会の変化についても鋭く切り込みます。しかし、決して難しい理屈を並べた啓蒙書ではありません。むしろ、私たちがいつの間にか忘れてしまった「手でふれる」という原始的で豊かな感覚を取り戻させてくれる、五感に訴えかける物語です。
視覚が情報の多くを占める現代において、私たちは「見ている」だけで、実は多くのものを見落としているのかもしれません。本書を読み終えたとき、あなたはきっと、身近にあるものの質感や、誰かと手を繋ぐ感覚を、これまでとは全く違う愛おしさで感じることでしょう。
障害の有無にかかわらず、誰もが自由に、そして等しく文化の光を享受できる未来とは何か。「見る」だけの鑑賞ではない、指先から広がる、もうひとつの芸術世界。その新しい扉を開く鍵は、あなたの指先にあるのかもしれません。すべての表現を愛する人、そして「伝えること」に悩むすべての人に贈る、希望と発見に満ちた一冊です。