親の精神疾患とともに生きる子どもの
レジリエンスを高めるために

家庭、地域、保育・教育現場でできること

編著者

アルベルト・レンツ:著

宮崎 直美:訳

田野中 恭子:監修

ISBN

978-4-7803-1325-3 C3011

判 型

A5判

ページ数

168頁

発行年月日

2024年05月

価 格

定価(本体価格2,400円+税)

ジャンル

障害児教育・保育・療育

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Kinder psychisch kranker Eltern stärken
本書の第一章は「精神疾患はきわめて一般的なよくある病気のひとつです。」という一文ではじまります。けれど、日本の社会には、いまだに精神疾患にたいする偏見は存在し、当事者やその家族、とりわけ子どもたちは不安な気持ちを抱えていることが多いのが実情です。
不安のなかにひとりぼっちでいる子どもに手を差し伸べられるのは私たち大人です。手を差し伸べるための適切な方法を知っていることは、私たちにとっても大事なこと。
ドイツでの最先端の知見がまとめられた本書は、その方法が具体的に記されており、それぞれの場での実践書としても活用できます。
監修の田野中恭子先生による日本のデータも掲載。巻末には、「おすすめ情報」として、日本で刊行されている絵本や支援機関情報も掲載しています。

第1章 私たちが、精神疾患の親とその子どもについて知るべきこと
 1 精神疾患はどれくらいよくあることなのか?
 2 親が精神疾患というのは、よくあることなのか?
 3 当事者の子ども自身も病気になるリスクはどのくらい高いのか?
 4 ストレス要因―遺伝と環境はどのような影響をおよぼすのか?
 5 子どもは自分の状況をどのように経験しているか?
 6 精神疾患を患う親は自分の状況をどのように経験しているか?
第2章 レジリエンス―精神疾患の親がいる子どもを強めるものはなにか?
 1 レジリエンスとはなにか?
 2 レジリエンスの高い子どもの特徴はなにか?
 3 親に精神疾患がある子どもの保護因子
 4 レジリエンスは個々の保護因子の総和以上だ
第3章 どのように子どものレジリエンスを高めるか?親としてなにができるか?
 1 子どもに親密さと情緒的な安心感を伝える
 2 褒めたり認めたりすることで、子どもに情緒的な安心感と愛着を与える
 3 子どもが問題に対処できるようにサポートする
 4 子どもがほかの人と連絡を取れるようにする
 5 子どもに病気のことを話す
 6 子どもの成長が心配なときは、専門家に助けを求める
第4章 保育園や幼稚園、学校の先生たちのための特別なアドバイス
 1 子どもの行動の変化に気をつけよう
 2 子どもの気持ちやニーズに対する親の意識を高める
 3 ほかの専門家と連絡を取るには

大人ができること
そもそも、どうして精神疾患を患う親とともに人生を歩む子どもに支援や説明が必要なのでしょうか。状況を整理できない不安のなかにひとりぼっちでいる子どもに手を差し伸べられるのは私たち大人です。「子どもの発達にあわせた」、つまり目の前のその子にあった仕方で、その子の大切な人(お父さんやお母さん)が今どのような状態なのか、どうしてか、絵本などを使いながら説明する必要があります。説明することで子どもが感じる不安や罪悪感の鎖を断ち切ることができます。
 
ドイツで生まれた本書の日本における意義
ドイツ語圏では、臨床の現場から、1970年代末に精神障害者とその家族(ただし配偶者などの大人)との関係が注目されはじめました。1990年代半ばに精神障害者の子どもにスポットがあてられ、支援すべき人に子どもも含むと考えられるようになり、子どもへの支援体制づくりを進めています。このような背景があるドイツ語圏で蓄積してきた研究・実践を、諸外国の活動もふまえアカデミックに、なおかつ専門家だけでなく一般読者にもわかりやすくまとめた現時点で最先端の知見が本書です。
 
本書を届けたいところ
子どもの支援は単独でできるものではありません。各専門の人たちが連携を取っていく必要があります。この本を届けたい領域は、当事者家族やその近しい人たちに加え、大きくは教育関係・行政関係・精神医療関係の3か所です。
子どもが長い時間を過ごす幼稚園や学校で先生に気づいてもらうのは重要なことです。ただ、気づいてもらったとしても先生たちは忙しく、助けたいと思ってもその子と家族のために動く時間を作るのは大変です。学校と連携し、適切な支援につなげるのが行政関係の役割になります。もちろん、精神医療の現場も大切な役割を担います。当事者の親本人だけでなく、家族のメンバーがそれぞれに、さらに家族全体として専門的な支援を受けられるのが理想的です。

Prof. Dr. アルベルト・レンツ
ミュンヘンで心理学・社会学・教育学を学ぶ。1994年から2017年まで、ドイツ・パーダーボルンのノルトライン=ヴェストファーレン州 カトリック大学社会福祉科で臨床心理学と社会心理学の教授を務める。ノルトライン=ヴェストファーレン州カトリック大学の健康研究および社会精神医学研究所(igsp)の共同創設者。主な研究テーマは、精神疾患の親がいる子ども、精神医学と青少年福祉の連携、エンパワーメントとソーシャルネットワーク、心理社会的カウンセリングと危機介入。ドイツ連邦健康省(Bundesministerium für Gesundheit)に属する専門機関である連邦健康教育センター(Bundeszentrale für gesundheitliche Aufklärung)から出ている早期支援シリーズの無料オンライン資料のひとつ、「精神疾患の親を早期予防・早期支援するための資料」の作成者。
 
田野中 恭子
佛教大学保健医療技術学部看護学科准教授。精神障害者の家族、特にその子どもに関する研究、支援を行う。CAMPs(精神疾患の親をもつ子ども支援団体)代表、家族会(京家連)にて精神疾患の親をもつ子どもの個別相談担当、NPO法人ぷるすあるは製作の動画「親が精神障害 子どもはどうしてんの?」に参加している。翻訳・著書に『悲しいけど、青空の日―親がこころの病気になった子どもたちへ』(サウザンブックス)などがある。
 
宮崎 直美
慶應義塾大学法学部法律学科卒業ののち、一橋大学社会学研究科修士課程修了。専門は政治思想史。ウィーン在住。2018年にPater Johannes Schasching SJ-Preis を受賞。
翻訳書に『精神の自己主張ティリヒ=クローナ往復書簡 1942-1964』(未來社・共訳)、『うつモンスターがやってきた!ママどうしたの?』(ラグーナ出版)、『キツネくんのひみつゆうきをだしてはなそう』(誠信書房)がある。