ひきこもりソーシャルワーク
生きる場と関係の創出
著 者 | 山本 耕平 |
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ISBN | 978-4-7803-1148-8 C0036 |
判 型 | B5判 |
ページ数 | 148頁 |
発行年月日 | 2021年03月 |
価 格 | 定価(本体価格2,200円+税) |
ジャンル |
当事者・家族・支援者共同の取り組みを提案。
“8050問題”をはじめ多様化する引きこもりをめぐる課題を、わたしたちはどのように受けとめ、どのような支援を構想することができるのか。安心して引きこもりつつ育ちあえる場と関係、制度と社会をつくるために、当事者・家族・ソーシャルワーカーがともに取り組む実践の全体像。
第1章 ひきこもりと社会
1、主体的な参加が困難な社会
2、“なかま”を失う社会
3、生きる力を奪われる社会
第2章 ソーシャルワークの対象としてのひきこもり
1、ひきこもりソーシャルワークと当事者
2、ひきこもりソーシャルワークと家族
3、ひきこもりソーシャルワークと地域・社会
第3章 生存権・発達権を保障するひきこもりソーシャルワーク
1、侵襲的支援の克服を
2、順応から参加を目指すひきこもりソーシャルワーク
3、発達保障実践としてのひきこもりソーシャルワーク
4、社会変革の主体を育てる実践の創造
5、当事者・家族の可能性(力)に着眼したソーシャルワーク
第4章 ひきこもりソーシャルワークの固有性
1、ひきこもりソーシャルワークの固有性
2、問われなければならない「自立」
3、評価軸の固有性
第5章 ひきこもりソーシャルワークの方法
1、ひきこもり事例との出会い【出会いの局面】
2、危機介入とソーシャルワーク【危機介入の局面】
3、制限からの解放を目指す【制限との対峙の局面】
4、協同的関係性とひきこもりソーシャルワークシステム
第6章 ひきこもりソーシャルワークとアウトリーチ
1、アウトリーチ判断基準
2、事例とアウトリーチ
第7章 ひきこもりソーシャルワークの評価
1、安心してひきこもりつつ育つ実践を準備できつつあるか
2、当事者・家族の個の課題とどう取り組めたか
3、ひきこもりソーシャルワークと社会−−その評価視点−−
投稿者:女性・40代・スクールソーシャルワーカー
評価:☆☆☆☆☆
朝日新聞の記事をネットでたまたま読み、この本にで会えることができました。すぐにオンラインで購入し、毎日一章ずつ大切に読んでいます。各章難しいと感じる箇所もあるため何度も何度も読んでいます。ひとつひとつとても丁寧に、しかし的確に書かれていて、図解もあることでなにをどうすればいいのかものすごくわかりやすいです。私自身は高校のスクールソーシャルワーカーですが、この本はひきこもり支援に限らず、様々なケースを扱う中でソーシャルワーカーとして大切にするべきこと全てがかかれているとおもいます。
山本先生についてはこの本で初めて知りましたが、今後も機会がある限り先生から学び続けたいおもいです。
書評 山本耕平著「ひきこもりソーシャルワーク-生きる場と関係の創出」
著者と初めてお会いしたのは本書の冒頭でも語られているJYCフォーラムが主催する全国若者・ひきこもり協同実践交流会でした。そこで著者の講話を初めて聴き、その熱意あるエネルギッシュな語りに惹きつけられたことを今でも鮮明に覚えています。現場をよく知らないで教壇に立つ研究者が目立つなか、常に社会福祉実践者の立場からの当事者たちとの協同実践活動をぶれることなく唱えてきました。
本書はそうした長年の著者の実践知と研究知の蓄積から、真摯にこれからのひきこもりソーシャルワークを考え議論を深める素材(試論)としてまとめられたものです。
内閣府の調査でも少なくとも全国に115万人以上のひきこもりが推計され、ひきこもり当事者やその家族がこれほどまでに生きづらくさせてしまった社会的な背景を抜きに語ることはできません。「失われた20年」と呼ばれる渦中である筆者としても看過できない大きな課題です。
本書では、まず第1章ひきこもりと社会において、そうした生きづらさをつくりだす「競争を強いる社会とその社会で支配的になってきた競争主義的価値」について言及しています。あらゆる競争的価値の浸透は、当事者の生存に必要な仲間づくりを分断させ、「いじめ」や「ハラスメント」などを生み出し、かけがえのない生命や尊厳を脅かすものとなっています。ひきこもりソーシャルワークはこうした危機に対峙していくことを述べています。
また第2章において、生きづらさは多様なひきこもりの対象像をつくり出していることに触れています。また、ひきこもりは当事者だけではなくその家族も追い詰められていきます。ひきこもりの長期化で行き詰まった家族が弱みに付け込む高額「産業」に手を出してしまうケースは昨今、後を絶ちません。煮詰まった親子が安心して温かい眼差しのある地域で落ち着いて暮らしていくことができる居住福祉支援があれば、これほどまでに苦しむことはないのかもしれません。
そのことは第3章、生存権・発達権を保障するひきこもりソーシャルワークにつながります。順応から参加へ、そして当事者の視点に立脚すれば、当事者が主体的に「参画」できるソーシャルワークであってほしいものです。そのためにも当事者や家族の可能性に着眼する意義は大きいものと思います。人間はどんな困難な状況のもとにあってもそれを乗り越えていくことができる潜在的な力をもっています。そうした力を発揮できるようになるかどうかもソーシャルワークのありよう次第といっても過言ではないでしょうか。
ひきこもりの経験値は人それぞれであり、非常に幅広いところがあります。それだけに第4章ソーシャルワークの固有性もその柔軟さが求められます。とくに本書で述べられています、上から目線になりがちな専門的支援を乗り越えていく、協同的関係性を保つことは支援者として容易なことではありません。ちょっとしたことで上下関係は起こります。しかし常に心に留めて「本当にこのような支援でよかったのだろうか」と振り返り続けることでこの理念に接近する意義を見出していくものと信じております。
そうしたことから第5章からはソーシャルワークの方法について述べられています。とりわけひきこもり支援は就労支援が強調されやすい課題がありました。その多くは社会適応訓練することを目的とする支援で、これまでも当事者とのミスマッチングを繰り返してきました。本書では、ひきこもりソーシャルワークは「仕事に当事者を合わせるのではなく、当事者に仕事を合わせる取り組みを展開する」ことが述べられています。
第6章ひきこもりソーシャルワークとアウトリーチでは支援者だけではないピアスタッフとの協働について触れられています。ピアスタッフが現場実践において支援者と同様に「なくてはならない」存在であることを改めて認識できるものです。第7章でも触れられています、当事者どうしのつどう場(居場所)をはじめ、当NPOが行う返信を求めない手紙(絵葉書)活動も広義の意味でアウトリーチといえるのではないでしょうか。このあたりの見解を機会があればぜひお聞きしたいところです。
最後に、本書で気になったところを述べて感想としたいと思います。「居場所として認めていた施設で当事者が収入を得る活動をした理由により、それは居場所ではないと自治体が補助金を打ち切った事象」には、納得がいかないものを感じました。すでに日本社会福祉学会が刊行する社会福祉学第61巻第2号には、「ひきこもり」支援施設の活動とその両義性-フレーム概念を通じて-の論考があり、そこではカフェ活動は居場所活動と就労の両義性を有していることが考察されています。居場所のなかで展開される機能とは、実は多機能なものではないでしょうか。居場所とは単なる場だけではなく、そこでは当事者どうしが情報交換や支え合い活動、さらには新たなアイディアに基づく仕事づくりが行われてもおかしくない場です。こうした行政にありがちな線引き行為が制度政策の狭間に置かれ続けたひきこもり支援の大きな障壁になっていることについて本書を通して今一度再考していくことが求められていると思います。
山本 耕平
和歌山市保健所精神保健福祉相談員、大阪体育大学、立命館大学を経て現在、佛教大学社会福祉学部教授。社会福祉法人一麦会理事長。JYCフォーラム共同代表。専攻分野:精神保健福祉論、社会福祉実践論、若者支援論など。